僕らは見られる商売

京都南座に行く。
片岡愛之助さんの舞台だ。
幕間に、近所の一銭洋食を食べた。
外で立ったまま食べ終わって気づいた。


シャツの前身ごろがソースと肉汁でびちょびちょやーーん。


ソースを落とした程度じゃない。
シャツの前面ほぼすべてが、ソースびたしになった。
劇場のトイレで服脱いで洗ったら騒ぎになるだろうから、公衆トイレに駆け込んだ。
服脱いで、水で洗ったけど、色も匂いも落ちない。
そのまま濡れた服着て客席に戻ると・・・


むっちゃ臭いやーーーんっ。


両隣の客に心から申し訳なく観劇した。
帰り、パーキングで声かけられた。
「遙洋子さんですね。客席で見つけました」
半乾きのヨレヨレのシャツと、ソースの匂いを漂わせ、小さい声で返事した。
「そーです・・」
南座のお客さんは、着物や上質なワンピースで身を飾る人が少なくない。
歌舞伎座もそうだ。
服だけじゃなく、顔の下半分もソースだらけになったから、化粧は取れて、ない。
そんな顔と、そんな恰好で、ファンと称する方と写真撮った・・。

「洋子ちゃん。僕らは見られる商売やからな」
そう笑福亭松之助師匠から、若い頃、教えられた。
一番惨めな恰好の時に、「ファンです」と声かけられる・・。
もう外で立ったまま一銭洋食は、生涯、食べない、と心に誓った。


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