「ねえさん」の無礼

芸能界では姉さんと呼ばれることがある。
後輩からだ。
疑似家族の芸能界では、兄さん、姉さん、が普通だ。
でも一般社会でそう呼ばれると腹が立つ。
そこに、侮蔑を感じるからだ。
行きつけの喫茶店で、遙さん、洋子さん、と呼ばれていたが、ある日、「ねえさん」になった。
私はその喫茶店に行くのを辞めた。

「マスターがねえさん元気?と言ってましたよ」と友人。
「もう行かない。ねえさんって無礼だから」と私。
「関西では、ねえちゃん、ねえさん、とか、言うじゃないですか」
違う。
「姉ちゃん、財布落としたで」とかはある。
名前を知らず、でも、呼び止めたい他人同士の声かけは、姉ちゃん、だ。
でも、姉さん、は違う。
他人同士なら、「そこのお姉さん、落とし物ですよ」はある。
敬意の「お」をつける。
でも、旧知の仲で、突然、「ねえさん」は、馴れ馴れしい。
付き合うなり「お前」と呼ぶ男と似てる。

年配だからと「お母さん」と呼ぶのも似てる。
「ねえさん」は自覚なきジェンダーバイアスが背後にある呼称だ。

親しげを装いながら、実は見下す言葉が、「ねえさん」だ。
ねえさん、と言われると、細胞がフツフツと煮えたぎる。


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